コンセプトアルバムというものを、このアルバムを聴くまでは誤解していたように思う。
ハーパースビザールの3thアルバムにして、ソフトロックのジャンルを超えて、コンセプトアルバムの金字塔のような扱いをされているアルバムである。
このアルバムの特徴はなんといっても、聞くたびに毎回白昼夢に襲われることにある。どのような人にも隠れた別の人生がある。登るべき山、愛すべき人達、征服する都市、星星の向こうの楽園のへの道が。「ザ・シークレット・ライフ・オブ・ウォルター・ミィッティ」(虹を掴む男)という映画に影響されたレニー・ワロンカーが架空の映画のサウンドトラックとして企画したものである。
世界のあちこちの場所に、どんどん飛んでいくような曲の構成。曲の中で世界の様々な場所を訪れて冒険を繰り広げるということらしい。幻想的で面白いアレンジに目がいきがちだが、時に優しくささやくように誘導してくれる、ディック・スコパトーンとテッド・テンプルマン2人のメインボーカルの声の要素はすごく大きい。
そういえば、「スローターハウス5」というカート・ヴォネガットの本があったが、あれを読んでいるときと同じ感じがする。「スローターハウス5」では主役の男は自分の意思に関係なく、人生のどこかの時点にタイムトラベルし続けてしまう話だった。
選ばれた曲は、アメリカの映画の主題歌や挿入歌、オリジナル曲、日本についてのバカラックの曲など、アルバムのコンセプトに相応しい曲が集められた。曲と曲の間には、間奏曲が挟みこまれ、1枚切れ目のない曲のつながりを作っている。曲によってはメドレーに切り替わったり、銃の発射音が聞こえる「ホエン・アイ・ワズ・カウボーイ」など、効果音を利用したり、各所各所でこれまで以上の凝った作りになっている。映画のサウンドトラックという話だが、個人的にはミュージカルや劇をみているような気持にもなる。
まずは、「Look to the Rainbow」夢の世界へ誘い込む、ゆっくりとした曲調、「フィニアンの虹」という映画の挿入歌、1分ほどもすると銃撃の音が聞こえ、舞台は一気に戦場へと進み「バトル・オブ・ニューオリンズ」へ。これはベリーボトキンJrアレンジのシングル曲で95位まであがったとのこと。さらに過去へさかのぼり、太鼓の調べが聞こえそうな「ホエン・アイ・ワズ・ア・カウボーイ」、デビューシングルの「フィーリング・グルーヴィ」を間奏でかぶせてある茶目っ気ありで、ここまで一気に聴かせる。
中盤戦突入の「センチメンタル・ジャーニー」は1944年の同名映画の主題歌。続く2曲はメキシコに移動しての「ラス・マニャニータス」と「バイ・バイ・バイ」この2曲はテッドテンプルマンとディック・スコパトーンによるオリジナル曲。「バイ・バイ・バイ」は途中でランディ・ニューマンの「Vine Street」に切り替わる。このメドレーはかなりかっこいい。この曲のアレンジャーのボブ・トンプソンの名前は覚えなければならない。
続く、バカラックの曲「ミージャパニーズ・ボーイ」はこのアルバムの白眉、歌詞はなんちゃって日本になっていますが少年と少女の恋をさわやかに描いたもの、オリエンタルな曲を、我らがニック・デカロ様が素晴らしいアレンジを施しています。バカラック本人からこのアレンジがベストと言ったとかいわなかったとか。
続いて、レコードでいえばB面に突入。ガーシュインの「ステアウェイ・トゥ・パラダイス」最初は他の曲に目がいっていましたが、聴きなれて来るとこの曲の間奏はかなり聴かせます。アレンジはボブ・トンプソンとのことで。名前覚えましょう。次は再びオリジナル曲。この曲は正直印象薄いですが、ゆったりとした美しい曲です。
こればっかり聴いてたリストの「シット・ダウン・ユーアー・ロッキング・ザ・ボート」1950年頃のミュージカルから持ってきた曲だそうで、曲の速度を変化させるコーラスワークがたまらない曲です。最後にさらっとジョニ・ジェイムズ版が個人的に好きな「I’ll see you in my dream」が入ってきます。
「I love You,MAMA」「ファニー・ハウ・ラヴ・キャン・ビー」ときます。ライナーによればこれを結婚式でかけた人がいるとのこと。おお!って会場は思ったんでしょうね。そしてオリジナルの「Mad」このアルバムにはメンバーのオリジナル曲が3曲も入っています。他の曲に見劣りしないで出来で、この「Mad」は特に素晴らしいです。そして1曲目の「Look to the Rainbow」ふっと現れたと思うと、最後は極めつけの名曲「ドリフター」です。ロジャーニコルズの作で、大人気曲がここで登場します。アレンジはもちろんニック・デカロ様。「ドリームという」別の曲を途中で挟みこむという荒業をみせて幻惑してきます。この曲のせいで、ロジャーニコルズとニック・デカロの大ファンになりました。
ボーナストラックには2曲、ジョニ・ミッチェルの「Both sides now」をアレンジ。ジョニ・ミッチェルの版は聴くと、黙り込んでしまう凄みがありますが、こっちはあくまでさわやかソフト路線。悪くはないですが、無理があるなと若干思います。2曲目はSmall Talkでアレンジはデカロ様。アルバムの曲と地続きのような感じでこの曲も聴くことができます。
他のコンセプトアルバムが霞んでしまうほどの、これだけのものを作った彼らの才能は相当なものです。最高の音楽職人が集まって、仕上げたという感触があります。このアルバムを知ることができてよかったとつくづく思います。もう何年経っても聴くことができる名盤の1枚だと思います。
1. 虹を見てごらん(「フィニアンの虹」より)
2. バトル・オブ・ニューオリンズ
3. ホエン・アイ・ワズ・ア・カウボーイ
4. センチメンタル・ジャーニー~間奏曲
5. センチメンタル・ジャーニー
6. ラス・マニャニータス
7. メドレー: バイ・バイ・バイ/ヴァイン・ストリート
8. ジャパニーズ・ボーイ
9. ステアウェイ・トゥ・パラダイス(天国への階段)~間奏曲
10. ステアウェイ・トゥ・パラダイス(天国への階段)
11. グリーン・アップル・トゥリー
12. シット・ダウン・ユーアー・ロッキング・ザ・ボート
13. アイ・ラヴ・ユー、ママ~間奏曲
14. アイ・ラヴ・ユー、ママ
15. ファニー・ハウ・ラヴ・キャン・ビー
16. マッド
17. 虹を見てごらん(「フィニアンの虹」より)
18. ドリフター
19. ドリフター ~ リプライズ
20. 青春の光と影* Bonus Track
21. スモール・トーク* Bonus Track