このアルバムのジャケットにはメンバーの写真がない。
灰色のコンクリート壁のような背景にペンキが飛び散っている。
レーベルが想定していたイージーリスニングを求める年配の層ではなく、若者達に訴えかけるためにジャケットは、このアブストラクトアートのデザインに決めたそうだ。
クリス・デドリック率いるフリーデザインは、高い音楽性により、レーベルの信頼を完全に勝ち取り、ジャケットの決定権すら持っていたそうだ。さらに、プロのミュージシャンである父親のアート・デドリックや叔父のラスティ・デドリックのコネを活かし、当時のニューヨークで活躍していた一流のミュージシャン、ジャズマンを集めてこのアルバムのレコーディングに挑んだ。(ラスティは実際にトランペットを吹いている。)エンジニアには、再び名プロデューサーのフィル・ラモーン。考えられるベストの人員を参加させたのだと思う。
前作で極めつつあったコーラスワークに加え、クラシカルな要素を残しつつ、今度はジャズ/ゴスペル/ファンク色を押し出したアルバムになっていて、他のどのアルバムよりも力強い。演奏、アレンジ、曲、コーラス、歌詞の全てにおいて隙がなく、フリーデザインのピークを迎えるのが、この4THアルバムSTARS/TIME/BUBBLES/LOVEだ。と思う。
1曲目の「Bubbles」クリスがこのアルバムで一番好きな曲だという、複雑なアレンジ。ジャズぽいシャンシャンしたシンバルの音、歌詞は子供の目から見た内容でありながら、言葉に含まれるものを感じる。1曲目からのいきなりめくるめく曲だ。これはシングルカットされたそうだが、チャートからは無視されたも同然だったらしい。
続く2曲目までの間に、クレジットされていないインストルメンタルが入っている、2曲目へのつながりのために配置したものだと思っていたら、どうもそうではなく、レコーディング中にクリスが急に思いついたメロディを歌い、それをメンバーとサポートメンバー達の手で即興で録音したものだそうだ。というわけで2曲目とは無関係とのこと。なんかすごいエピソードだ。
「Tommorw Is the First Day of The rest of my life」は、一点おだやかな滑り出しから始まる。1曲目から2曲目へのこの流れはもう頭の中で鳴り響くぐらい聴いた。ちょうど、ブロードウェイでミュージカルをやっていたらしく、すかさず採用したそうだ。
「Kije’s ouija」ouijaとはウイジャ盤のことで、霊界とのつながりを作るボードのことらしい。サンディの牧歌的な歌声からすぐにリズムセクションとコーラスが入ってくる。この曲と次の曲が前半の山場だ。とはいえこのアルバムはつまらない曲がほとんどないので、山場と言ってもただ盛り上がりという意味にすぎない。
「Butterflies are free」もシングルカットされた。(ボーナストラックにはこのシングル版が収録されている)これもちょうど同じタイトルの映画をやっていたものをアレンジしなおしたもの。思うにこのアルバムでは、クリスのオリジナルもカヴァーの曲も全てクオリティが高くほとんど区別がつかない。
「Stay off your frown」と「Starlight」と「Time and love」と静かな曲が続く。それから、フリーデザインファンから人気のある「I’m a yogi」が続き、バカラックの有名すぎる「Rain drops keep falling on my head」。さすがにこの曲だけは飽きていてあまり聴かなくて飛ばす事が多い。そしてお待ちかねの名曲。次作にもつながるノリノリでキャッチーな「Howdjadoo」。この曲が個人的にベストトラック。そして最後は悲鳴にも似た超高音でしめくくる「That’s all,people」でアルバムは幕を閉じる。
総じて楽しいアルバムでありながら、流し聞きがあまりできず、通しで聴くと疲労が若干残ってくる。出来る事はやって、行けるところまで行ったという充実感が聞き手にも残る感じ。ポップでファンクで、深い歌詞と緻密なアレンジ、そして一流の演奏。見事過ぎて、思わず彼らを神格化しそうになるが、そんなことをすればオーバーダビングできず、後から編集することができないこの時代で、ここまで練り上げられた曲を演奏し、記録に残したメンバーの労力に失礼に思える。
このアルバムは、スタジオで力の限り格闘した汗と努力の結晶のように感じられる。だから最高の賛辞を贈るだけにしたい。
最後にボーナストラックについて「to a black boy」はボーナストラック付きを買ってよかったと思う代表曲がこれ。モードみたいなジャズの影響のある曲。中盤から後半にかけてのピアノがめちゃめちゃかっこいい。クリスが別の仕事でアレンジの依頼をされたのを、メンバーがデモで作成したものらしい。