初めてフリーデザインに触れたのは、仕事から帰宅途中の電車の中で暇をもてあましている時に、この「One by One」についていたライナーノーツをパラパラと読んだ時だった。60年代後半から70年代前半にかけて活躍したフリーデザインは、ほとんど全ての音楽雑誌、Web、ブログ、そんなところで「最高」評価をつけているグループだ。僕は全然知らなかったのだけれど、90年代に日本の音楽好きの間で再評価され、カリスマ的な人気を獲得し、その音楽性や技術的なレベルの高さや、どのぐらい後のアーティストに影響を与えたかなど、散々語られ続けたらしい。今になって、僕はそういった何年にもわたって語りつくされたものを、あちこちから拾い集めてきては、大事に机の前に置き、彼らに対しての興味をどんどん膨らませていったわけだった。
彼らについたキャッチコピーを見ると「絶対零度のコーラス」「ソフト・ロック系グループの最高峰」「ソフトロックの至宝」など、なかなか勢いがあって、かつ大層なものが多かった。長男でリーダー格のクリス・デドリックをはじめ、メンバーは全員が兄弟姉妹で、正当な音楽教育を受けているらしく、幾分アカデミックな方向にあることが読み取れる。でも、その言葉やライナーに書かれている内容だけでは、全然、核心には触れていないように思えた。それだけではどんな音楽なのかイメージがわかない。もちろん聴いてないから当たり前だけど、聴きたいと思わせる核のようなもの、そういものですらあんまり感じることができなかった。ということだ。アカデミックでジャズぽくてPOPな音楽。そういう音楽なら他にもいっぱいあるじゃないかなと。特に今は。
そうして、CD屋に行くと再発されたCDの中で「One by One」とベストだけが残っていた。本当は評価の高い「Heaven/Earth」とか「STARS/TIME/BUBBLES/LOVE」が欲しかったのだがもう販売していなかったのでやむえず購入。膨れ上がる期待と、期待を裏切られた時にがっくりくる予想感の間で、その日、僕は電車ともども揺れていた。眺めていたライナーノーツは力の入った内容で、メンバーのクリスとサンディによる自らの各曲への解説、コメントが入っていて面白かった。日本版なら、小さいけど日本語の解説も入っていた。そして、ライナー自体のデザインもかなりオシャレだった。そうして、半分程読み進めたところで、フルオーケストラをバックにギターを持って立っているクリスの写真とスーザンとサンディの写真に出くわした。そこでライナーをめくる手が止まった。
写真は1971年のライブの模様を撮影したものだった。彼らは今にも歌いだしそう、あるいは歌っている最中なのか、3人とも聴衆の方を見て平行に立っていた。それを見てフリーデザインが一気に身近になった。あちこで書かれた評価から漠然と思っていたイメージ、実験的で学者的な嫌なスタジオ研究タイプのアカデミックなグループではなく、単に音楽が大好きな人達に違いないという核心を持った。おそらく難しいことをやっているけれど、本質的に路上で歌っている人のようなフィーリングもあるんじゃないかと。研究したいんじゃなくて、音楽を聴いて欲しいんじゃないか。
帰宅して、早速1曲目の「One by One」を聴き始めるとすぐに「あかん めっちゃいい」と大人気なく?ため息が僕の口からもれる。弱く控えめで感情移入しずらい声ではあるが、声と楽器が音そのものになってくる。ジャズのような肉声にも乏しい低体温のコーラスでも、とりあえず次の展開が読めないめくるめく美しいメロディ。あぁくどいと思うとストンと終わる妙なアレンジ。
とりあえず、印象は、高いレベルで構成された「ポップソング集」か。例えるなら表向きはフランスのショートケーキ。ああなんだ,ビタースィートケーキか、あれ、ついでに午後のワンコインビスケットみたいな俗っぽさもごちゃ混ぜになっているような味わい。それでいて希薄な感じ、標高の高い山の霧みたいな感じ。クリス・デドリックという天才的な音楽家の「まとめ切れてない」というか「まとめきる気がない」というか「まとまってるのか?」なんか凄いな。
ブルースが既に脱退して、このアルバムは残った3人で作られたものらしく。エンディングは感謝しすぎの「thank you all」。この曲はもう解散を覚悟して、お礼を言いたかったから作った曲だそうだ。
他のCDが最初は手に入らなくて、いきなりこれから聴いてしまったけれど、他のアルバムと後で比較すると、一番肌触りを感じられるアルバムだった。力がありすぎて「やりすぎ」気味の曲がこのアルバムにはない。もはや熱狂的にファンと言える状態になったのも、まずはこのアルバムでフリーデザインに対する先入観を捨てられたからだ。だからそれで良かったと思っている。フリーデザイン、最高です。
1. ワン・バイ・ワン
2. フェルト・ソー・グッド
3. フレンドリィ・マン
4. ハートに灯をつけて
5. ライク・トゥ・ラヴ
6. ユー・アー・マイ・サンシャイン
7. ゴー・リーン・オン・ア・リヴァー
8. ゴーイング・バック
9. ラヴ・ミー
10. フレンズ
11. フォー・ラブ・シーズンス (ボーナス・トラック)
12. ワン・バイ・ワン (ボーナス・トラック)
13. ホエア・ドゥー・アイ・ゴー (ボーナス・トラック)
14. ライク・トゥ・ラブ (ボーナス・トラック)
15. フレンズ (ボーナス・トラック)
ボーナストラックはThe Birmingham Symphony Orchestraとの共演による、
1971年のライヴ音源です。必聴。