フリーデザインの70年代のラストアルバム(28年後にもう1枚でますが)である。
5thで次男のブルース・デドリックが抜け、それまで6枚のアルバムを作成したEnoch Light’s Project 3からも去り、父親のアート・デドリックがたまたまAmbrotypeというインディーズの契約してきたため作られたアルバムである。この頃は、リーダーであるクリス・デドリックは停滞する自分の音楽活動の方向性を模索し、空軍での徴兵任務を全うしながら悩んでいた。
クリスはスタジオワークにもニューヨークの街にも幻滅し飽き飽きしていた。音楽性の高さにも関わらずフリーデザインは商業的に無視されたも同然だったことは多いに影響があるだろう。だからちょうど、友人のDavid Greenにカナダのトロントに誘われて、移住を考えているところだった。
今作ではこれまで、フリーデザインを支えてきたスタジオでの凄腕ミュージシャンはおらず、ほとんどの楽器を自分たちで演奏することになった。それは図らずも最初の曲作りと同じ事をしている。1thの「カイツーアファン」のようにシンプルな音作りだ。でも今度は、演奏を最小限に抑えてボーカルをメインにしたアルバムになっている。全12曲のうちアカペラが3曲もあり、その他の曲も3人の歌唱を全面に出したものになっている。
フリーデザインのアルバムを集めだした頃は、このアルバムが退屈に聴こえていたのを覚えている。とにかく他のアルバムに比べて地味であり、曲同士の区別がつかないという感じだった。確かに1曲目の「Canada is Springtime」 やタイトルになった「There is a song」は名曲だと思うけれど、その他は1段落ちるという印象だった。無理矢理解散したときのおまけみたいな感じで作ったんだろうと。でも、それから自分が年齢を重ねて、もう一度改めて聴いてみたとき、全く違った風に聴こえてきた。ここにあるのは希望の歌だった。正直感動すら覚えた。しかも、よくよく聴いてみればあのめくるめくアレンジ力は少しも落ちていない。むしろ美しさを増しているといえる。傷ついた人間のみが出せる優しい音色だった。これは歌についてのアルバムで、タイトルにこめられた思いは歌そのものについて。音楽一家のデドリック家にとって、歌が意味するのは家族そのものであり、そこにはもちろん愛がある。
クリス・デドリックがライナーの中で各曲へのコメントを寄せているが、「peter,paul&marry」で過去への決別について語り、「Love does not die」では愛についての定義、考え方を新たにしたと述べている。このアルバムの後で、カナダで出会った思想家のKenneth Millsに影響を受けクリスはカナダに留まり、サンディもミルズの編成するボーカルグループ、スタースケイプシンガーズに参加することになった。妹のエレンも別の場所で音楽を教えることになった。
その後、28年後再結成するまで、別々の道を歩む事になる。このアルバムはそのそれぞれの道へのはなむけのようだ。
後の再評価は彼らにとっては嬉しいことだったと思うが、このアルバムのおかげでフリーデザインの解散はみじめなものに感じられず。
むしろ素晴らしいことのように思えてくる。このアルバムがあって良かった。個人的に辛い時や苦しいときには、1番聴きたいアルバムになっている。
1. カナダ・イン・スプリングタイム
2. クン・バ・ヤー
3. ピーター、ポール&マリー
4. パイナップル・クラブアップル
5. ザ・シンボルズ・リング
6. ステイ
7. アイ・ワナ・ビー・ゼア
8. ゼア・イズ・ア・ソング
9. ア・チャイルド・イズ・ボーン
10. ラヴ・ダズ・ノット・ダイ
11. コラール
12. フーガ